松田博史社会保険労務士事務所

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配転、出向、転籍(法的に無効とならないために)

配転・・・勤務場所や職種を相当期間にわたって変更する人事異動
 
 従業員に配転命令を命じることが可能な根拠が必要
 ・就業規則に配転に関する規定がある。
 ・過去に配転が行われている。
 ・勤務場所や職種を変更しないという個別合意がない。

 上記を満たしていれば、従業員の個別合意はなくても配転命令を命じることができます。
 個別合意がある場合は、従業員の同意が必要です。

 配転命令権を有する場合でも、配転命令が権利濫用になる場合は無効になります。
 ・配転命令に業務上の必要性がない。
 ・配転命令が他の不当な動機、目的をもってなされた。
   例)組合活動を理由とした配転、退職に追い込むことを目的とした配転
 ・従業員に対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる。
   例)本人が病気で転勤により悪化の可能性がある、病気の家族の看護をしなければ
     ならない

 不利益を緩和する措置を実施していると、法的争いになった場合でも、配転命令が有効とされやすくなります。


出向・・・元の会社に在籍したまま、労務提供先を別の会社に変更する人事異動で
       元の会社に復帰することが予定されている

 従業員に出向命令を命じることが可能な根拠が必要 
 ※配転と同様
 
 出向命令が権利濫用にあたらないこと
 ・業務上の必要性がある。
 ・人選が妥当である。
 ・労働条件が著しく悪化していない。
 ・生活に著しく不利益が生じない。


転籍・・・元の会社との労働契約関係が終了し、別の会社と新たに労働契約を結ぶ
       人事異動で、元の会社に復帰の予定はない

 従業員に転籍命令を命じることが可能な根拠が必要
  就業規則に規定があり、それに加え従業員の同意を得ることが必要

 転籍命令が権利濫用にあたらないこと


実務的には、就業規則に配転・出向・転籍に関する規定があり、従業員には事前に内示するという対応が多いと思います。

内示の段階で承諾してくれた場合は良いですが、拒否された場合の対応としては、
・他の従業員にあたる。
・権利濫用に該当していなければ配転命令を正式に発令する。(ただし、転籍は除く)
のどちらかになります。

正式に発令しても拒否を続ける場合は、業務命令違反として就業規則の懲戒規定に沿って、懲戒処分することも検討することになります。


 
2022年07月05日 16:45

有給休暇のこんな時はどうする(再雇用、買い取り、退職予定者など)

定年退職者を再雇用する場合
定年退職者を嘱託社員等として引き続き雇用する場合は、単なる会社内における身分の切り替えであって雇用関係は継続しているため、勤続年数は通算して、その年数による有給休暇日数を付与します。


有給休暇の買い取り
有給休暇の買い取りは違法です。ただし、法律を上回る日数の有給休暇を与えている場合の上回る日数部分についての買い取りはOKです。

有給休暇は使用しないと2年で時効となり消滅してしまいますが、その消滅分を買い取りすることはOKです。

退職時に消化しきれなかった有給休暇日数を買い取ることはOKです。


退職予定者の有給休暇の取得
退職予定者が残りの有給休暇をすべて取得したいと申し出てくるケースがあります。有給休暇は原則、従業員がこの日に取得したいと申し出た日に与えなければなりませんが、その日に有給休暇を与えることが、事業の正常な運営を妨げる場合のみ取得日を変更して与えることができます。いつに変更するかは従業員が決める事項となります。

しかし、退職予定者については、退職予定日を超えて取得日を変更することが不可能なため、希望どおりに与えるしかありません。ただし、退職にあたり、業務の引き継ぎをきちんと行うことは社会常識ですから、本人と話し合って取得日数を減らしてもらうことや、消化できない日数分を買い取ることで了解を得るという対応をとることは許されます。


パートの所定労働日数が変更になった場合
有給休暇の権利は、基準日(入社半年後、1年半後…)に発生するため、その基準日現在の所定労働日数に応じた有給休暇を付与することになります。
例えば、前回の基準日から数か月経過後に所定労働日数が週3日から週4日に変更になった場合、その変更になった時点では有給休暇日数の変更はありません、次回の基準日が到来した時に、週4日に相当する日数の有給休暇を付与します。
 
2022年06月22日 12:03

退職勧奨を行うときの注意点(トラブルにならないようにするには)

退職勧奨とは、会社から従業員に対して自発的に会社を辞めるよう説得する行為で、従業員はそれに応じる義務はありません。ただし、従業員がその申し入れに応じれば労働契約の合意解約となります。

だからと言って、会社は退職勧奨を自由に行うことができるわけではなく、説得の回数・手段・方法が社会常識に照らして一般的でなくてはならず、決して強制的・執拗的であってはなりません。
仮に説得の限度を超えた退職勧奨を行うと、従業員に対する不法行為となり、会社は損害賠償責任を負う可能性があるため注意が必要です。

退職勧奨の方法
・退職勧奨の面談は会社側の人数は1~2名で行う。従業員の自由な意思を尊重できる
 雰囲気で行う。
・面談は3~4回までとする。1回あたりの時間は20~30分とする。
 就業時間中に行う。
・場所は会社で行う。窓がある部屋で行うと良い。


退職勧奨を行う時のポイント
■従業員が退職勧奨に応じることになった場合は、必ず退職届を提出してもらうこと。
 または、合意解約書を取り交わすこと。なぜなら、会社が退職勧奨に応じての退職と
 認識していても、従業員は解雇と認識している可能性があるため。および離職後に
 法的紛争になった場合のリスクに対する備えのため。

■退職勧奨を行う業務上の必要性があること。
 退職勧奨するに至った理由を事実に基づいて、きちんと従業員に説明できるか。

説得行為適正であること。従業員の真意に基づいた退職であること。

■従業員が録音しているケースが増えてる。
  ※隠れて録音したものも証拠として認められる。
 不安であれば、こちらから「録音しますね」と言って録音する。


退職勧奨を行うにあたり、やってはいけないこと(損害賠償が生じる可能性がある行為)
多数回にわたる面談、長時間にわたる面談を行う。
■従業員が退職勧奨に応じない旨を明確に表現した後も、執拗に退職勧奨を継続する。
大声を出す。机をたたく。人格を否定するような発言をする。嫌がらせ・暴力行為
 などの心理的圧力を加える言動や 名誉感情を不当に害する発言を行う。
■解雇に相当する理由がある場合は、「退職勧奨に応じない場合は解雇になる可能性が
 ある」と発言することは問題ないが、解雇に相当する理由がないにもかかわらず、
 そのような発言をすることは大いに問題あり。
 
2022年05月25日 11:33

企業の健康診断実施義務(安全配慮義務違反を問われないために)

労働安全衛生法には、事業者(企業)は常時使用するすべての労働者に対して、雇い入れ時
年1回、医師による健康診断を実施しなければならないと定められています。

常時使用する労働者とは
・期間の定めなく使用される労働者(正社員など)
・期間の定めがあるが、契約更新により1年以上使用されることが見込まれる労働者
 および契約更新により、すでに1年以上使用されている労働者

パートやアルバイトであっても、常時使用する労働者に該当し、週の所定労働時間が
正社員の3/4(4分の3)以上
であれば、受診させる必要があります。
なお、厚生労働省の通達では1/2(2分の1)以上であれば、受診させることが望ましいとされています。

健康診断の費用
事業者(企業)、労働者(従業員)のどちらが受診費用を負担するのか法令上の定めはありま
せんが、健康診断を実施することは企業の義務のため、当然企業が負担すべきです。

従業員が会社の指定した医師による健康診断を受診することを希望せず、他の医師による
診断結果
を提出することを希望する場合は、それでも構いません。
この場合の費用負担は従業員負担でも良いのではないでしょうか。

健康診断の受診義務
従業員には、健康診断の受診義務がありますので、これを拒否すること(他の医師による
受診も拒否)は、業務命令違反として、懲戒処分の対象にすることが可能です。

健康診断の結果
企業は、健康診断の結果を従業員本人に通知したうえで、その結果について健康診断個人
票を作成
し、5年間保存しなければなりません。

また、従業員が50人以上の場合は、労働基準監督署に健康診断の結果を提出しなければなりません。

企業は、健康診断の結果、異常所見があると診断された従業員の健康を保持するための
必要な措置について、医師の意見を聴かなければなりません。
そして、意見を聴いたうえで必要がある場合には、就業場所の変更、職務の変更、労働時間
の短縮等の適切な措置を講じなければなりません。

これを怠り、従業員が死亡するなどの事態が生じた場合は、企業は安全配慮義務違反
問われ、損害賠償が発生する可能性があります。
健康診断を実施していない場合も同様です。(さらに責任は大きい)


 
2022年05月16日 11:36

時間外労働や休日労働が翌日(長時間)まで及んだ場合の割増賃金の割増率

法律に定められている割増率
時間外労働  2割5分増
休日労働    3割5分増 
深夜労働    2割5分増

時間外労働とは、1日8時間を超えて働いた労働時間のこと
休日労働とは、労働基準法上の法定休日に休日労働した場合のこと 
深夜労働とは、22時~05時の時間帯に労働した場合のこと

法定休日とは・・・
労働基準法では、休日は週1日与えることが義務付られています。
その週1日の休日に休日労働した場合の割増率が3割5分増と定められています。

週休2日の場合(例えば土日休み)
土曜日に休日労働しても日曜日が休みであれば、割増率は2割5分増でOKです。
その逆に日曜日に休日労働しても土曜日が休みであれば、割増率は2割5分増でOKです。

3割5分増の割増賃金の支給が必要になるのは、土日両方労働した場合になります。
就業規則に法定休日をどう規定しているかによりますが、例えば、日曜日を法定休日
規定しているのであれば、土曜日は2割5分増、日曜日は3割5分増となります。

土日両方労働した場合の労働時間が短い方を法定休日にすると規定している場合は、
労働時間が短い方の日が3割5分増、長い方の日が2割5分増となります。


時間外労働や休日労働が翌日まで及んだ場合の割増率

具体例(所定労働時間9時~18時とすると)

①時間外労働(残業)が翌日の始業時刻まで及んだ場合
 18時~22時  時間外2割5分増
 22時~05時  時間外2割5分増深夜2割5分増5割増 
 05時~09時  時間外2割5分増
 09時~     翌日の通常勤務の始まり

勤務が2日に及んだ場合は、その勤務の始業時刻が属する日の労働時間になります。
上記の場合、9時~翌日の09時までが前日の勤務時間になり、09時以降が当日の勤務になります。

②時間外労働(残業)が法定休日にあたる翌日まで及んだ場合
 18時~22時  時間外2割5分増
 22時~24時  時間外2割5分増深夜2割5分増5割増
 24時~05時  休日3割5分増深夜2割5分増6割増   ※24時から休日スタート
 05時~09時  休日3割5分増

休日労働と時間外労働(残業)は共存しません。よって、休日労働が8時間を超えても割増率は3割5分増でOKです。
休日労働は時間外労働の一種であるためです。

③法定休日勤務が翌日の始業時刻まで及んだ場合
 09時~22時  休日3割5分増
 22時~24時  休日3割5分増深夜2割5分増6割増
 24時~05時  深夜2割5分増時間外2割5分増5割増  ※24時で休日終了
 05時~09時  時間外2割5分増
 09時~     翌日の通常勤務の始まり


 
2022年05月09日 14:19