最近、相談の多いの労務相談・労務トラブルの回答・説明
①
求人広告と異なる労働条件で労働契約を結ぶことは問題ないか
内定(面接)時に、求人広告と異なる労働条件を
会社から提案することは全く問題ありません。労働契約は
当事者の合意で決めるものだからです。面接を受けた者が、
納得・同意すれば求人広告と異なる労働条件での
労働契約が成立します。
ただし、注意する点として、変更(提案)する内容は、
内定を出す前の段階までに明示する必要があります。そして、
勤務開始前に
労働契約書を取り交わすべきです。
※労働条件通知書ではなく労働契約書とし
本人の署名押印があるものがよい。
労働条件をあいまいにしたまま勤務を開始し、開始後に変更をしたり、労働契約書を取り交わすことは、
法的紛争時において
認められない可能性大です。
「すでに従前の勤務先を退職し、就労を開始しており、これを拒否すると仕事が完全になくなり、収入が断たれると考え署名押印したと認められる。」
と
採用後の労働条件の変更を認めない裁判例があります。
②
試用期間を延長することは可能か
試用期間の延長は、
就業規則にその旨の記載があれば可能です。本採用するかしないか判断が難しいケースに検討することになりますが、そもそも本採用チェックリストのようなものがあれば、悩むこともありません。
本採用チェックリストとは、試用期間中の労働者の
能力面・行動面を評価するリストです。
会社が求める仕事のレベルや行動(姿勢)を書き出し、それぞれの項目について
5段階評価し、合計が〇点以下の場合は本採用しないという評価リストです。
さらに、
内定時(勤務開始前)に〇点以下だった場合、本採用されないことに異議を申したてない旨の
誓約書をとっておくと
トラブルになるリスクは低くなります。
③
面接時に健康に関する事項を聞くことは可能か
業務の目的達成に必要な範囲内であれば質問することは問題ありません。ただし、業務に直接関係ない病歴を質問することはNGです。
実務的には、面接で直接には聞きにくいため、
健康に関する質問書のような書面を作成し、
入社希望者に記入してもらうことがよいです。健康質問書とは、健康に関する質問に、「はい」、「いいえ」、「答えたくない」の
三択で回答してもらうものです。
メンタルヘルスに関する質問もOKです。
過去2年ぐらいまでの病歴を聞くことは大丈夫です。※目的達成に必要な範囲内で作成すること
④
メンタルヘルス不調で勤務に支障をきたしているがどのように対応すればよいか
就業規則に
休職に関する定めがあれば、その内容に従い進めていくことなります。
まずは、一定期間欠勤が続いたのちに休職となりますが、本人に
休職命令をきちんと
発令してください。
発令していないまま数か月経過していても、それは単に欠勤となり、休職とは認められませんので、
休職を最初からやり直しになってしまい、自然退職(雇用契約解消)までの期間がとても
長くなってしまいます。
休職命令は文書できちんと伝えましょう。
⑤
休職中の従業員から復職したい旨の連絡があったがどうすればよいか
復職させるかさせないかは、本人が決めるものではなく
会社が決定する事項です。
診断書を提出させ、事案によっては、
会社が指定する医師の診断を受けさせてたり、
主治医にヒアリングすることも検討すべきです。
また、判断の方法として
試し出勤をさせてみるがあります。試し出勤とは、簡単な仕事、短時間の勤務、1日おきの勤務などからスタートし、
徐々に通常業務へ移行していく仕組みです。試し出勤中は、
合意があれば最低賃金でも構いません。
そして、試し出勤中に再度体調不良になった場合は、話し合いの上、再度休職するか、退職してもらうことになります。
実際
退職に応じる(自ら退職を申し出る)ことは
多いです。
⑥
新しく採用した従業員が問題社員であった
人材の確保が難しい今、少し前までなら採用しないレベルの人を採用し入社してもらったが、心配したとおり
問題のある社員であるという相談は非常に多いです。まずは、②の試用期間のところで紹介した本採用チェックリストを活用し、
試用期間終了までに結論を出しましょう。
本採用後の解雇は、裁判で有効と判断してもらうことは
非常に難しいことが理由です。
特に、
能力不足による解雇は、
より一層難しいです。
裁判では、
書面による証拠が重宝されます。
※裁判官は、
証言<書証(書面による証拠)を信じます。
指導に関する文書例
・
指導記録・・・ミスや問題行動などの
客観的事実を記載、
5W1Hで分かりやすく、
指導・注意の内容やその時の本人の反応を記録、
ダメな内容の成果物
を捨てずに残しておく
・
業務日報・・・毎日の行った業務を
本人に記載し提出させる、
上司も毎日コメントを
記載し返却する
解雇が有効と判断されるには、
これ以上指導しても改善の見込みがない、と
誰もがそう判断するまで手を尽くしたかどうかが重要になります。そのため、指導期間は、
最低3ヶ月から1年は必要と考えられます。(新卒の場合は1年以上)
期間経過後、会社が求めるレベルに達しなかった場合は、
退職勧奨による合意解約を目指します。また、退職勧奨に応じない場合は
解雇することを検討します。
ここまで指導すれば解雇無効になる可能性は低いですが、絶対ではありませんし、裁判に時間を取られることは業務にも支障がありますので、
合意解約できるよう最善の努力をしてください。
※合意できた場合は、必ず
合意解約書を締結しましょう。
⑦
退職勧奨において注意すべき点は
こちらのページを参照
https://office-matsuda.jp/blog_articles/taisyokukansyou.html
⑧
定年後再雇用において、再雇用後の労働条件を引き下がることは問題ないか
法律は、会社に65歳まで
働ける仕組みを設けることを求めていて、65歳まで雇用することを求めているわけではありません。
厚労省見解
「高年法が求めているのは継続雇用制度の導入であって、事業主に
定年退職者の希望に
合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく、
事業主の合理的な裁量の範囲の
条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されなかったとしても、
高年法違反となるものではない。」
よって、労働条件については、
合理的な裁量の範囲内の労働条件を提示し、
労働者が納得・同意すれば引き下げることも可能です。ただし、業務内容が定年前と全く変わらない場合は、
同一労働同一賃金が問題が生じます。(2021年4月1日から全面施行)
※ 定年後再雇用の
労働条件に関する裁判が増加中
一旦、同意したとしても、
後々同一労働同一賃金の問題として争うケースが多いです。
同一労働同一賃金の全面施行により、基本給、各手当、賞与、1つ1つについて不合理かどうか裁判では判断されます。
業務内容の見直しや責任の軽減、出勤日数・労働時間を減らすなど、
労働条件を引き下げる分かりやす理由があるほうがよいです。
また、
年金受給は65歳からですし、高年齢雇用継続給付も
縮小・廃止されますので、
65歳までの継続雇用制度の導入がスタートした頃と同じ考え方での
給与設定は
通用しない時代になっています。
今(これから)の時代に合った条件提示をすることが
紛争予防のポイントです。