松田博史社会保険労務士事務所

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2024年5月の記事:

仕事中の交通事故(労災保険と自賠責保険)

従業員が仕事中通勤途中交通事故に遭った場合は、労災保険治療費休業補償給付を請求することができます。また、相手の自賠責保険治療費休業損害等の賠償を請求することもできます。ただし、同一の事由で労災保険と自賠責保険の両方に請求することはできません。

つまり、治療費を労災保険と自賠責保険の両方に請求することはできませんが、治療費を労災保険に請求して、休業損害を自賠責保険に請求することは可能です。

それぞれの保険の特徴は、次のとおりです。

労災保険

療養給付として、治療費の全額が支給される。(治療費の支払いが不要)
休業給付として、仕事を休んだ4日目から給与の60%が支給される。
 また、特別支給金として給与の20%が支給され、合わせて給与の80%が支給される。

自賠責保険

・自賠責保険からの支払いは120万円までと限度額がある。
・治療費、休業損害(100%支給)だけでなく慰謝料等も支給される。
・自賠責での治療は自由診療扱いになるため、治療費は労災保険の2倍ぐらいになる。
 (保険金はすぐにはもらえないため、一旦治療費の支払いが必要になる。)
・労災保険より請求手続が簡単である。
・120万円を超える場合は、相手が任意保険に加入していれば、任意保険から支給を受けることが
 できる。ただし、事故に遭った従業員に過失がある場合は、過失相殺され金額が減額される。


では、どちらの保険に請求するのがよいのでしょうか。
実際に事故に遭った場合、まずは治療費が必要になりますが、治療費は労災、自賠責どちらを使ったほうがよいのか見ていきましょう。

具体例1

治療費   30万円(自賠責であれば60万円)
休業損失  40万円
慰謝料等  10万円

自賠責で治療しても休業損害、慰謝料等を含め110万円で120万円以内となるため、すべてを自賠責保険に請求しても損害の全額を受けることができます。
また、治療費は労災保険を使い、残りを自賠責保険に請求しても全額の補償を受けることができます。

損害総額が120万円以内で収まりそうなときは、治療費はどちらを使っても残りの損害金額の全額の補償を受けることができます。

一般的には、請求手続が簡単な自賠責保険に請求することが多いと思われます。


具体例2

治療費  60万円(自賠責であれば120万円)
休業損失 60万円
慰謝料等 20万円

自賠責で治療すると、治療費だけで120万円を使い切ってしまうため、労災保険から休業損失の80%の48万円を受け取り、休業損失の残り12万円と慰謝料等は受けとることができなくなってしまいます。つまり、損害総額のうち32万円がもらえなくなってしまいます。そこで、治療費はまず労災保険を使い、残りは自賠責保険を使えば、損害の全額を受け取ることができます。

一般的には、治療費が高額になり、損害総額が120万円を超えそうな時は、治療費は労災保険を使い金額を抑えておくことが多いと思います。


事故の相手が任意保険に加入していて、被災労働者の過失が0%であれば、損害額にかかわらずすべて相手の保険を使えばよいのですが、任意保険に加入していなかったり、加入していても被災労働者に過失がある場合は、損害額を全額(できるだけ多く)受け取れるよう、労災保険と自賠責保険をどう組み合わせて使うことがベストな選択かをよく考えて請求するとよいです。

 
2024年05月31日 14:33